その飛行機の名は
通称L10(エルテン)
正式名称は、
エンジンが3基着いているからトライスターなんだね。
飛行機好きって、数字や形式で言いたがるから関係者はみんなL10って言っていた。
人生の大先輩は、あのロッキード事件の飛行機って言えば、思い出すかな。
飛行機の特徴
この飛行機、当時○○Aで飛んでいた飛行機の中でも、変わった構造だった。
飛行機の中に、エレベーターがあるんだ。
客室を広くするために、ギャレー(飛行機の台所)が客室の下に配置する構造になっていた。下のギャレーで準備した物をエレベーターで上にあげて、CAさん達がお客様にサービスする。
このエレベーターに、妙な噂があった。
妙な噂
本当か嘘かよく分からないけど、ある特定のL10に、その噂があった。
JA○○○○のL10は、出るらしい・・。
JA○○○○ってのは、言ってみれば飛行機のナンバー。主翼の下や飛行機の一番後方に書いてあるから、今度飛行機を見ることがあったら気にして見て下さい。
私が機内清掃のバイトをし始めた頃は、今となっては懐かしい、ボーイング747-400(通称ダッシュ400)が就航したばかりの頃。当時は、クジラも飛んでいた⁉
L10は徐々に退役しており、あと数機を残すのみとなっといたから、L10の機内清掃もたまにしか周って来なかった。
なんだかヤダなあと思っていると、来ちゃうんだな。
あれは遅番の時だったかな。
私達が乗っている車に、スポット○番のステイのL10に行ってくれって無線が入った。ステイってのは、もうその日は飛ばない飛行機のこと。
だから、時間に追われて掃除しなくていいからラッキーって思っていた。
でも、シップナンバーを聞いてみんなが凍った。
「JA○○○○って、出るやつじゃない?
私ギャレー絶対ヤダから!」
霊感の強い女の子が怯えていた。
指示されたスポットに到着し、そのエルテンに乗り込んだ。
あれはなんだったんだろう。
その日、ギャレー掃除担当の彼女が拒否するもんだから、仕方なく私がギャレーの掃除をすることになった。ジャンケンで負けちゃったから仕方ない。
その女の子は、
「今日のバイト代いらないからこのエルテンには、絶対乗らない!」
って断固拒否していた。
そんなこと言うもんだから、みんな超ビビっていた。
機内清掃が終わる頃、班長がコックピットに行き、照明用の電気のためにAPU(動力用補助エンジン)を動かしてくれていた整備さんに、機内清掃完了報告をして、皆でタラップを下りた。
タラップを下りている時、機内の電気が消され、私達より先に整備さん達が車に乗り込み帰って行った。
機内清掃で出たゴミを積み込み、私達も次の飛行機の機内清掃をするために車を走らせた。
すると、運転していた班長がルームミラーを見てぼそっと言った。
「あれっ、電気ついてないか?」
みんな振り返って、そのエルテンを見た。
確かに機内の照明がついて窓が明るく見えた。
車に乗っていた全員がそれを見た。
「でもさぁ、整備さん先に帰ったじゃん」
「・・・・・・・。」
みんな黙っていた。
念の為、班長が無線で本部に確認し、しばらくしたら、返事が帰ってきた。
「整備さんにも確認したけど、消灯したって言ってるよ。それと、シップチェンジもないから今日はそのエルテン飛ばないよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
機内の照明を点灯させるには、エンジンを回す必要がある。
あの時、整備さんがAPUを止めてドアを閉めて先に帰った時、エンジンは完全に止まっていた。
だから、照明が点灯するはずがない。
それをみんな知っているから、なおさら怖かった。
控室に帰ったら、みんなが私達を凝視した。
あれはなんだったんだろう。
今でもハッキリ覚えているけど、
本当にあれはなんだったんだろう。
ま、いっか。
※この写真はエルテンではありません。