きりたんぽ汁は嫌いだった。
現場監督をしていた会社は、冬になると秋田から出稼ぎのオジさんが来た。
オジさん達は、会社の道具置き場2階にある、プレハブの建物で寝泊まりしていた。
オジさん達は、圃場と呼ばれる植木が沢山植えられている畑で、植木の手入れをするのが仕事。
オジさん達が来た夜、ささやかな歓迎会をやったのだが、秋田からと言うこともあり、きりたんぽ鍋を作ってくれた。
先輩達は、きりたんぽ鍋を旨そうに食べていたけど、実は私はきりたんぽが大嫌い。
小さい頃食べた印象が悪かったのか、本当に嫌だった。
その時までは。
秋田のオジさんの笑顔、先輩も「せっかく作ってくれたんだから食え!」って言うから仕方なく口に入れた。
んんっ、旨い!
旨いぞ!
本物のきりたんぽ鍋は、
旨かった。
その時、嫌いな食べ物が一つなくなった。
ほっこりするけど、分からない⁉
オジさんどうして話している時は、何言ってるのか、さっぱり分からない。
とても日本語には思えず、フランス語で話しているかのようだった。
オジさんと直で話すときは、大分なまっているけど、何とか理解できる。
当時は、同じ日本なのに何でこんなに言葉がちがうのか興味を持った。
オジさんと仕事を一緒にやることは、あまりなかったので、正直あまり覚えていないが、今でもオジさんの顔と一緒に覚えている秋田弁は、
んだ、んだ、んだ
春の訪れ
2月になり、梅やももの花が咲く頃、秋田のオジさん達はそろそろ帰るのか、故郷の話をし始める。
造園関係の仕事をしていると、植木で季節を感じる。
そしてあの時も、菜の花が咲き、桜の開花宣言の辺りでオジさん達は秋田に帰って行った。その年は2人で出稼ぎに来ていたが、秋田に帰って直ぐに1人が体調を崩し、そのまま亡くなったと聞いた。
だからもう、あのオジさんの秋田弁は聞くことは出来ない。
ま、あれから20年以上経っているから、もう一人のオジさんも、天に召されたと思うけど、何年経ってもあのオジさんの顔が浮かぶと、
この言葉を思い出す。
んだ、んだ、んだ